所感
様々な業界のテクノロジー技術による変容を網羅的に知ることができ、今後10年間の世の中の変化が非常に楽しみになる一冊でした。取り扱う分野が広いため、とても多くの情報量が流れ込んで来ますが、具体的かつバランス良く紹介されています。さまざまな業界の最新情報をいい感じにつまみ食いできると思います。SFチックな話でも、もう具体的な製品等が開発されているという驚きがありました。根拠となる論文なども注釈されており、より詳細を知りたい内容に対して簡単にアクセスすることができて良いと思います。
どうしても日本国内のニュースのみを見ていると、海外の情報を見逃しがちであるため、今後は海外の情報にもしっかりアンテナを張らないと行けないと感じました。(実際に本書で知って以外だったこともありました…)
単純にワクワクできる本ですので、ぜひ読んでほしいです。
概要
本書では主に10の業界が加速的にどう変化を迎えるか(迎えているか)を網羅的に紹介しています。(小売、広告、エンターテインメント、交通、教育、医療、長寿、金融、不動産、環境)
これからの10年で私たちの世界は根底から大きく変化する可能性が高いです。これは、AIや量子コンピューター、ロボティクス、通信技術などの「エクスポネンシャル(≒指数関数的に)・テクノロジー」の成長とこれらのテクノロジーがコンバージェンス(≒複数技術の融合)することにより、従来では考えられない速度で世界が変わっているためです。この本ではこの根拠を具体的な事例をベースに紹介せれています。
最後には、「加速する未来では、機敏さが安定性を上回る価値を持つ。つまり変化したものが生き残る」と述べられており、継続的な学びが大切であると締めくくられています。
要約
1. 「コンバージェンス」の時代がやってくる
現在、様々な分野で技術革新が進んでいます。量子コンピューター、AI、ロボティクス、センサー、VR/AR、3Dプリンティング、ブロックチェーン、材料工学やバイオテクノロジーなどのいくつものエクスポネンシャル・テクノロジーが従来はばらばらに成長していたが、これらが「コンバージェンス(複数技術の融合)」し、いくつもの波が重なり合い、積み重なり、津波サイズに成長して、行く手にあるものをなぎ倒しながら突き進んできています。
本書では空飛ぶ車を例に「コンバージェンス」がどう起こっているかを紹介しています。
空飛ぶ車(現在はマルチコプター機やVTOL機での開発が多いと思う)には主に「安全性」「騒音」「価格」の麺で大きな課題があります。空飛ぶ車に近いヘリコプターはこれらの要因により一般大衆にはあまり普及しませんでした。
しかし、ここ10年でマルチコプター(ドローン)の需要が民間・軍事ともに高まり、最近では大型のマルチコプター(2021/1/26OA “空”を制する闘い 中国製ドローンの驚くべき実力)も試験導入されてきています。このような成長や今後の成長には以下のようなテクノロジーの成長がありました。
- 複雑なフライトシミュレーションを行うための機械学習の進歩
- 飛行制御を支えるコンピュータ処理能力の向上
- 正確かつ安全な飛行を支えるための、GPSやLIDARなどセンサー技術の進歩
- 軽量で、耐久性がある部品を作るための材料科学のブレイクスルー
- あらゆるサイズ、形状のモーターやローターを作るための3Dプリンティング
- 飛行継続時間を向上させるバッテリーの進歩
このような、一見バラバラであったテクノロジーが融合することにより、SFの世界での話が、現実のものとなりつつあります。
加えて、このような変化はエクスポネンシャル(指数関数的)に変化をするため、人間には予測するのが難しいです。アメリカの発明家レイ・カーツワイルが提唱した収穫加速の法則によると、これからの100年で従来の発展速度で20000年かかる変化が起こると述べています。
2. エクスポネンシャル・テクノロジーの6つのステージ
エクスポネンシャル(指数関数的な)・テクノロジーの成長サイクルには以下の6つのステージがあります。
- デジタル化
- あるテクノロジーがデジタル化されると、ムーアの法則に則ったエクスポネンシャルな加速が開始される。さらに、今後は量子コンピューティングによってローズの法則に則った成長が開始されるだろう。
- 例としてデジタルカメラが挙げられます。以前はフィルムを使用していたカメラが電子化することで、ムーアの法則に則り、どんどん進化したことがこれを示しています。
- 潜行
- エクスポネンシャル・テクノロジーは注目は集めるものの、初期の進歩はゆっくりなので、しばらくは世の中の期待に答えられません。一部のマニアの人が使用しているような状況です。
- 昔のビットコインなどがこれに当たります。
- 破壊
- エクスポネンシャル・テクノロジーがほんとうの意味で世界に影響を与え始める時がこのステージ
- 3Dプリンティングが10兆ドル規模の製造業を脅かしているのが例です
- 非収益化
- かつては製品やサービスにかかっていたコストが、そっくり消えてしまうステージ
- 写真がデジタル化した事により、枚数を気にせずに撮影が可能になり、現像コストが消滅したのが例です
- 非物質化
- ほんの少し前まであったものが手品のように消えるステージ
- かつては独立した製品・サービスとして存在していた機能が、今ではあらゆるスマホに標準装備されるようになったのが例です。ウィキペディアによって百科事典が消え、iTuneによってCDショップが消滅。
- 大衆化
- エクスポネンシャル・テクノロジーがスケールし、一般に広がるステージ
- 以前の携帯電話は非常に高価であり、富裕層しか手に入れられなかった。しかし、今日ではスマホが一切存在しない地域を探すほうが難しくなった。
これらステージにおいて、潜行から破壊に橋渡しすることがエクスポネンシャル・テクノロジーにおいては重要である。そのために、ユーザーフレンドリーなインターフェイスの開発が重要な要素となります。
たとえばインターネットがあげられます。1993年、マーク・アンドリーセンは、インターネット初のユーザー・フレンドリーなインターフェースとして「モザイク」を開発しました(のちにブラウザの「 ネットスケープ」)。モザイクが登場する以前、オンライン上には26個のウェブサイトがありました。しかし、数年後には、その数は数十万、さらにその数年後には数百万に膨らんでいた。これがユーザーフレンドリーなインターフェイスの威力です。
量子コンピューティングにおいてもリゲッティが開発した、ユーザーインターフェース「Forest」ふが提供されていおり。すでに150万個のプログラムが走ったと言います。
一度デジタルの世界の土俵に上がってしまえば、最初は失望されるものの、どこかでディスラプションが起きて一気に世の中に普及し、既存のものに置き換わっていきます。このような変化は連続的でなく非連続に成長するため、自覚したり予測することが難しいです。しかし、「ローカルでリニアな時代」は終わる
と本書では語られています。
3. 加速が「加速」する時代がきている
上記の例などからも加速的に世の中が変化していることが分かると思います。加速を「加速」させる力として以下の7つがあります。
- 1.時間の節約
- 2.潤沢な資金
- 3.非収益化
- 4.「天才」の発掘しやすさ
- 5.潤沢なコミュニケーション
- 6.新たなビジネスモデル
- 7.寿命を延ばす
従来の文明の進化も上記の力の何個かが働いたことによってもたらされてきたと思います。農業を始めたことで、狩りに割く時間が減り、政治学などの他の学問が発明されました。工業化により総作業に従事する人が減り、この空いた時間がさらに新しい発明品を生み出しました。しかし、その範囲はローカル的に連続的な成長が主でした。
今日では、様々な分野について簡単にアクセスができ、インターネットによって世界中の人々とつながることが可能となっています。つまり、グローバルな環境で、様々な要素が積み重なって非連続的な成長を行えるようになったと言えます。
このような、エクスポネンシャルな世界で生き私たちには**、機敏さが安定性を上回る価値を持つ**と言います。つまり変化したものが生き残るということです。
目次
Notes
はじめに
- 起業家、イノベーター、リーダー、そして機敏さと冒険心を持ち合わせたあらゆる人にとって、とほうもない機会が待ち受けている。私たちの想像を超えて加速する未来、かつてないほどの勢いで空想が現実化する世界が到来する
第1章 「コンバージェンス」の時代がやってくる
- レイ・カーツワイルは1990年代に、あるテクノロジーがデジタル化されると、つまり「1」と「0」のコンピュータコードとしてプログラム化されると、とたんにムーアの法則にのっとって「エクスポネンシャル(指数関数的)な」加速が始まることを発見した。
- 分散型電気推進力」、略してDEP
- レイ・カーツワイルが「収穫加速の法則」に従って計算したところ、われわれはこれからの100年で、2万年分の技術変化を経験することになるという
- 大企業や政府機関は別の世紀につくられた。その目的は安全と安定、言葉を換えれば「時代を超える生存」だ。急速かつ劇的な変化に耐えられるようにつくられてはいない。イェール大学のリチャード・フォスターが、今日のフォーチュン500企業の40%が、まだ私たちが聞いたことのないようなベンチャーに取って代わられ、10年以内に消滅すると予想するのはこのためだ(https://www.innosight.com/insight/creative-destruction/)
- すぐ先に待ち受けている未来を見通し、来るべき事態に適応する機敏さを持つことが今ほど重要だった時代はない
第2章 エクスポネンシャル・テクノロジーPART1
- 量子コンピューティングはすでに一般人でも利用できる。リゲッティ・コンピューティングのウェブサイト(www.rigetti.com)にアクセスすれば、いつでも量子デベロッパー・キット「Forest」をダウンロードできる。このキットは量子の世界へのユーザー・フレンドリーなインターフェースだ。それを使えば、たいていの人がプログラムを書き、リゲッティ社の32量子ビットコンピュータで走らせることができる。すでに150万個以上のプログラムがこのコンピュータで使用された
- エクスポネンシャル・テクノロジーの成長サイクルには六つのステージがある。「デジタル化(Digitalization)」「潜行(Deception)」「破壊(Disruption)」「非収益化(Demonetization)」「非物質化(Dematerialization)」そして「大衆化(Democratization)」
- こうした動きを総合すると、これから5年ほどでネットに接続したい人は、みな接続できるようになる。60年代の合言葉「一つの地球、一つの人類」が、ネットワークの観点からはようやく実現するのだ。そしてネット接続人口が「2倍」になれば、私たちはいまだかつてなかったような技術的イノベーションの加速と、世界的な経済発展を目にするだろう
- アフリカの50%にはまともな道路がない
- 今起きているのは、ロボット技術と他のエクスポネンシャル・テクノロジーとのコンバージェンスだ。センサーでできた電子的皮膚が、クラウド上のニューラルネットワークを使ったAIと融合し、おそろしく機敏で知的なロボットが続々と誕生している
第3章 エクスポネンシャル・テクノロジーPART2
- 3Dプリンティング技術の進歩は多くのサプライチェーンに大きな影響を与える可能性がある
- 3Dプリンティングの対応材料は周期表のほぼ全てを制覇している
- 現在、標準的なソーラーパネルの「変換効率」(とらえた太陽光のどれだけを電気に転換できるか)は16%前後で、1ワットあたりのコストは3ドルだ92。ペロブスカイト(灰チタン石)は光に敏感なクリスタルで、ごく最近登場した新材料だが、変換効率は66%に達する可能性がある93。理論的にはパネルの効率を2倍にできる。ペロブスカイトの材料はどこでも入手でき、結合させるコストも低い。こうした要因が重なり合った結果、誰もが利用できる安価な太陽光発電が実現する
- 最も重要なのは、幹細胞、遺伝子治療、あるいはCRISPRそのものではなく、こうした技術がすべて組み合わさったコンバージェンスの威力であり、そこに最も大きな可能性が潜んでいる
第4章 加速が「加速」する
- 変わらないのは「変化が続く」という事実だけであり、変化は加速する一方
- 加速を「加速」させる7つの力
- 1.時間の節約
- 時間の節約は単にテクノロジーの恩恵というだけでなく、加速のもう一つの推進力であるイノベーションを後押しするということ
- 節約によって浮いた時間が積み重なり、発明家、起業家、いわゆるガレージで夢を追う若者たちが実験し、失敗し、方向転換し、再び失敗し、再び方向転換し、最終的に成功するための時間が増えていく
- 2.潤沢な資金
- クラウドファンディングは資本へのアクセスを大衆化し、よいアイデアとスマホさえあれば、誰でもどこでも事業化に必要な資金を入手できるようにした。
- あっという間に驚くような金額を調達する手段といえば、新規仮想通貨公開(ICO)に並ぶものはない
- 潤沢な資金は、お金を記録的なスピードでアイデアやイノベーションに変えていく、ターボチャージャーのような役割を果たす
- 3.非収益化
- 非収益化のおかげで、企業の基本的ニーズ、すなわち電力、教育、製造、輸送、通信、保険、そして労働力のコストは劇的に低下している。投じる資金が多いほど、たくさんの宇宙飛行士を育てられる、ということはすでに書いた。そして非収益化は同じ資金ではるかに大きな推進力をもたらす。結局のところ宇宙に飛び出すのに必要なのはその推進力なのだ
- 4.「天才」の発掘しやすさ
- 5.潤沢なコミュニケーション
- 6.新たなビジネスモデル
- 7.寿命を延ばす
- 1.時間の節約
第5章 買い物の未来
- 同じタイミングで三つの重要なテクノロジーが登場し、融合することで、新たなインフラが生まれます。それによってエネルギーの使い方やバリューチェーン全体の経済活動のあり方が変わります。三つのテクノロジーとは、経済活動を効率化するコミュニケーション技術、新たなエネルギー源、そして新たな移動手段です
- 同じタイミングで三つの重要なテクノロジーが登場し、融合することで、新たなインフラが生まれます。それによってエネルギーの使い方やバリューチェーン全体の経済活動のあり方が変わります。三つのテクノロジーとは、経済活動を効率化するコミュニケーション技術、新たなエネルギー源、そして新たな移動手段です
- ネットでの小売り売上高は2009年第1四半期の340億ドルから2017年第3四半期には1150億ドルに成長したものの10、まだ小売業全体の10%を占めるにすぎない11。それはまだインターネットにつながっていない人がたくさんいるからだ。
- シスコの2015年の調査は、IoTソリューションがサプライチェーン・マネジメントに1・9兆ドル以上の効果をもたらすと予測したが、その根拠は十分ある37。AIは人間が気づかないようなデータのパターンに気づく。これはサプライチェーンのすべての構成要素(在庫レベル、サプライヤーの質、需要予測、生産計画、輸送管理など)が根本的に変わるということだ
- 直接的で記憶に残るリアルな経験に、モノを所有する以上の価値を見いだす人が多くなった
第7章 エンターテイメントの未来
- 「誰が」「何を」つくるかではなく、「どこで」コンテンツを経験するかが根本的に変わる
第8章 教育の未来
- 2015年のアメリカ教育省調査で、1日あたり7000人、つまり26秒に1人の学生が高校を中退しているというのもうなずける4。年間では120万人に達し、この半数以上が中退の最大の理由として「退屈だから」を挙げている
- 7000人、つまり26秒に1人の学生が高校を中退しているというのもうなずける4。年間では120万人に達し、この半数以上が中退の最大の理由として「退屈だから」を挙げている
第10章 寿命延長の未来
- 個々の科学技術ではなく、さまざまなアプローチを融合した時の威力が重要。これがまったく新しい方向へ導く。
第11章 保険・金融・不動産の未来
- これからの10年で「最高の物件」の定義が変わり始める。単にA地点とB地点の感がかわるというだけではない。立地そのものが増えるのだ。キーワードは「水上都市」だ。
第13章 脅威と解決策
- 今日の最も重大なリスクは、水危機、生物多様性の喪失、異常気象、気候変動、環境汚染と、すべてエコロジカルなものだという
- 木は炭素を蓄えている。針葉樹林を1エーカー(約4000平方メートル)燃やすと、4.81トンの炭素を放出する。つまり400億トン(人類が1年に排出する二酸化炭素)の炭素を放出するというのは、毎年およそ100億エーカー(約4000万平方キロメートル)の林を燃やし続けることを意味する。(アフリカ大陸1.3個分の森林を燃やす計算)
- 「量子ドット」と呼ばれるナノスケールの半導体の塊が、太陽電池に使われ始めている
- スチュワート・ブランドは「文明は猛烈な勢いで、病的なまでに近視眼的になりつつある」
- こうした傾向の原因は、テクノロジーの加速、市場主義経済ならではの短期的思考、次の選挙を常に意識する民主主義の特性、あるいは個人がマルチタスクに追われて注意散漫になっていることかもしれない。いずれの要因も一段と強まっている。近視眼的傾向を是正する何らかの調整が必要だ
- 私たちが身を置くエクスポネンシャルな世界では、俊敏さが安定性を上回る価値を持つ
第14章 5つの大移動がはじまる
- 高技能外国人の従業員が10%増えると、製品再配置は2%増加した。しかもこの傾向は、会社が投じた研究開発費の多寡とは関係なく確認された
- 私たちは気候を変えてしまった、今度は気候が私たちを変える番だ
- https://sealevel.climatecentral.org/news/global-mapping-choices
おわりに
- 常に、そして継続的に学びつづけることだ
- 各分野のテクノロジーの「地殻変動」をつかめ