製造業の従事するいちエンジニアとして、日本が抱える製造業の課題やその対策に関して国家機関が発行している白書を見ておくべきと思い、個人的なまとめをしました。
ものづくり白書とは
ものづくり白書は、「ものづくり基盤技術振興基本法」(議員立法により平成11年成立・施行)に基づく法定白書です。
2021年版で21回目の策定になるようです。
2020年版ものづくり白書の復習
2021年版のものづくり白書は基本的には2020年版から大きく変化はない印象でした。
2020年版のものづくり白書では以下がポイントとして挙げられいます。
- 不確実性
- ダイナミック・ケイパビリティ(自己の変革力)
- DX(デジタル・トランスフォーメーション)
不確実性の上昇とダイナミック・ケイパビリティの必要性
不確実性の増す世界では、環境変化に対応するため、組織内外の経営資源を再結合・再構成する経営者や組織の能力が競争力の源泉となります。これがダイナミック・ケイパビリティです。
ダイナミックケイパビリティに必要な能力は以下の3つになります。
- 脅威や危機を感知する能力
- 機会を捉え、既存の資源・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力
- 競争力を継続的なものにする、組織全体を刷新し変容する能力
不確実性の高い時代、製造業の戦略において、マスカスタマイゼーションなどにより顧客の特殊かつ少量のニーズの機会を逃さず補足することが大事になります。これには、高いダイナミックケイパビリティ、そしてデジタル化が不可欠となります。
トヨタ生産方式を採用している製造業では多品種少量生産を実現するための概念である「ジャストインタイム」に近い考えであり、Industry4.0の考えにも似ていると思います。
不確実性の時代、エンジニアチェーンが鍵を握る
顧客側ニーズの多様化により、製品の複雑化が発生し、設計部門への著しい負担増加が懸念されます。そのため、設計力強化が必要です。
一般に、製品の品質とコストの8割程度は設計段階で決まると言われています。そのため、設計段階で製造までのシミュレーションをし、設計への手戻りを少なくする必要があります。
2020年版の参考
- 2020年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)
- 2020年度版ものづくり白書3つのポイント 「不確実性」「ダイナミック・ケイパビリティ」「DX」 | Nikken→Tsunagu
- 「2020年版ものづくり白書」は何を語っているのか、5分でわかるその要点
2021年版ものづくり白書の抜粋とDXの必要
白書における総論
- COVID-19の世界的感染拡大のみにとどまらず、近年、我が国製造業のサプライチェーンにおけてリスクとなる「不確実性」が高まる一方。加えて、世界各国でカーボンニュートラルやデジタル・トランスフォーメーションの取組が急速に進展
- 「製造業におけるニューノーマル」は以下を主軸に展開される。そのためにも、ダイナミックケイパビリティと設計強化が要となる
- レジリエンス
- 回復力・危機回避能力
- グリーン
- SDGsに連なる業界構造の転換
- デジタル
- IoTやDXを見据えた取組
- レジリエンス
レジリエンス
近年はさまざまな要因により不確実性がましています。そのため、従来の企業はこれに対応する力が必要になってきています。完成品メーカーはとくに事業継続のためにこの対策を進めているためTire1などサプライヤーもTire2サプライヤーに対して、サプライチェーンの強靭化を進める必要があります。部品メーカーにとってこの取組みを進めることは完成品メーカーとの取引に大きなアドバンテージとなります。
2大大国米中の動向(簡単)
両国とも自立した経済圏の獲得を目指しています。
- 中国
- 双循環を目指す
- 地産地消を目指しつつ、海外経済も取り込む
- 中国2025を前提に、強固な自国内SCを構築し中国経済圏の依存を高めて影響力を行使
- 双循環を目指す
- アメリカ
- Made in All of America
- Buy America
- Innobate in America
- Supply America
- Made in All of America
大国が自国内回帰を進めている点や各国の安全保障や思想をめぐる対立が製造業におけるサプライチェーンの改変を余儀なくさせる恐れがあります。また、欧州圏においては人権侵害に加担した者に対する制裁を導入する流れになっていたりします。
トヨタではRESCUEにより10次下請けまでの追跡を実施しています。これによりSCのリスク管理を行い、在庫管理に生かしているとのことです。従来のトヨタ生産方式では在庫を持たないのが幻想でしたが、近年の災害などに対するリスクから部品によっては在庫を持つ必要性があります。
グリーン
日本を含めた各国政府は2050年までのカーボンニュートラルを目指すことを表明。脱炭素社会実現に向けた取組が世界的に広がっています。
自動車産業においては2035年までに新車販売をすべて電動車にする達成目標があります。細かい部品においても、環境規制による材料の変更などを進めていくなど、脱炭素などに向けた取り組みが加速しています。
脱炭素に向けてとくに注目すべきは以下の技術です。
- 電池
- 半導体
電池価格はTESLAでは3年以内に単価を半減させる目標があります(6円/Wh)。VWでもUNIFIED CELLを開発し、実際に進めています。
半導体は将来のインフラと言われており、集中投資すべき分野となっています。
基本的には半導体の微細化が小型化・省電力化をもたらします。そのため。微細化ができる半導体メーカーに主導権が与えられます。
電池からモーターやアクチュエーターを動作させるにはインバーターが不可欠です。インバーターにパワー半導体が利用されていますが、次世代パワー半導体によりSiの3倍程度のスイッチングが見込まれています。
デジタル
今後はデジタルを使うことが前提になります。新興企業はデジタルが当たり前の環境で事業が開始されているところが多いため、いわゆるDXを推進する必要はないと思いますが、IT技術が急発展する前に創業した企業ではビジネスプロセスを含む変革が必須となっています。
そのため、製造現場や実際に製品を利用するエンドユーザーの情報から経営判断をして開発、調達、生産、配送など各リードタイムを短くして行かないといけません。
また、地理的・経済的要因でどのようにことが運ぶかわからない時代、将来の方向性を察知し企業戦略を決定するのにはデジタルを使わないと対処しきれないです。
それに加え、日本の労働人口減少や働き方改革により総労働時間は急激にすくなることがほぼ確定しています。そのため、生産性の向上やグローバルな人材(海外拠点にも本社業務を担当してもらう)の採用が必須です。10年ほど先輩の話を聞くと、日を跨ぐまで残業するのが当たり前だったということなので、このような環境で業務を回していた企業にとって働き方改革は大きな衝撃になるのではないでしょうか。
製造現場においては熟練工に頼る必要のある工程が多く残っています。人口の観点から、熟練工にもに頼ることは限界があります。
数値化できるものは数値化し、現場作業を現代に即した形とすることで利益維持が図れるのだと思います。これらが達成されることで、さらなる採用や開発が行え、事業継続・発展に繋がります。
これらの課題解決のためのDX
製造業において、各事業部や部門におけるIT化は進められています。しかし、それらは各担当部署が個別に導入し、それぞれで利用するシステムが多く、システム間の連携が行われている箇所はかなり少ない印象です。そのため、設計は調達の情報などにアクセスすることができなかったり、設計も製造に関する情報にアクセスできなかったりします。また、工場により生産管理システムの仕様が異なっていたりし、工場間の連携も取れていません。実際、ものづくり白書でもこの部分は課題としてあげられており、一般的にどの部分に課題があるのかを示しています。
これらの課題を解決し、各基幹システム連携を強め、多くのデータをさまざまな情報に変換することでデータドリブンな経営を行うことが理想になります。
まとめ
基本的にはIndustry4.0やDXで語られている課題が多い印象でした。
ものづくり白書の提言は至ってシンプルで、「デジタル化しましょうね」、「そのために人材確保も考えましょうね」に尽きると思います。
デジタル化により経営層が経営資源の異常などをすぐに確認できたり、営業と設計、製造のデータが連携することでリードタイム削減が期待できたりするのだと思います。また、各工程のデータを把握できていれば突発的な障害時にどう対応するのがベターなのかを判断する材料としても利用できると思います。